あれから何日か経ち、
やっとあたしは平穏さを取り戻していた。

優弥はもちろん、あれ以来
足立も店に顔を出さなくなり、
心の中の嵐が去った様だった。


「・・・。」


試験管みたいな一輪挿しと、
薄桃色のチューリップを買って来て
店の窓辺に飾って見る。

夕方の誰も居ない暇な時間、
あたしはそれをカウンター越しに
ただ見つめてるだけで安堵感を憶えていた。

荒んだ心には花がいいと聞く。
本当にそうだ・・と思っていた所だった。


「・・・・いらっしゃい。」


ドアが開いて、あたしはその客に対し、
それを云っていいものかどうか
一瞬躊躇っていた。


「・・・。」


翔子・・、あの興味深い女のコだ。

優弥とは何が切っ掛けで?
今更な質問が脳裏を過ぎる。

アジア風のチュニック、
肩からクシュッとしたピンクの
大きなバッグを提げていた。

あの、表情のなさと云い
呆けたカンジと云い、
大体の察しは着きそうなものだ。

彼と云う男が
互いに・・愛おしく、痛い存在になった筈。

あたしと彼女の違いは・・?


「どうぞ。」


此方をジッとを黙視してる。
掌で席を勧めると静かに腰を降ろした。

入って座った以上、客だ。
お冷とお絞りを出しに行った。


「ご注文は?」

「・・アイス・オ・レ。」

「少々、お待ちを」


面と向かって恨みゴトを云う勇気はない様だ。
何か、違和感を感じながらも
そのまま厨房に戻ろうと踵を返していた。


「・・・!!」


後でカチャと云う音を聞き、
この静かなホールで尋常ではない
勢いのある足音に振り向いたのだ。

ジャキッ・・!

裁断用の大きなハサミを持ったままの彼女。
ハラリと床に落ちていく、あたしの・・髪。

その目の色にサッと血の気が引く。


「そんな事がしたくて・・?」

「なによ・・! 」


カッとなったのか、正面からまた
たわむ髪目掛けてすがり詰め寄った。

悲しみに潤んだ目で
開いたハサミを向けて絶叫しながら。


「アンタなんて!」


違いは・・あたしにしか
向けようのない憎しみが残ったこと・・。