振り向けばさっきのレスキューの1人。
手の平に30円を乗せて差し出してた。


「お釣り、取り忘れてたよ。」

「あ・・ご親切にどうも。」


慌てて立って
頭を下げてから受け取ろうとした、
そんな時だった。


「テカ、 自販機の数少ないね?」

「ああ、・・・!」


カップルが腕を組んで歩いてきた。
思わず2人、声の方を同時に見てる。

立ち竦むのは・・少し前まで見慣れた顔。
そして、一度しかあった事がない女の子。


「・・・。」


寒気があたしを襲う。
まるで武者震いみたいな。

やっと視線を外し
隊員の人からお金を受け取った。


「有難う・・ございました。」

・・・一体何?

なんで2人御揃いで
こんなトコに居るのよ!

てか、あたし今絶対キョドってる。

落ち着け・・らしくもないっ。


「じゃ・・。」

「イエ、あ・・!」


また腰を折り、リュウ達の居る場所へと
ゆっくり歩いて行った。

絶対、走らない様に。


「もー、ルリちゃん!
迷子になったかと・・!」


建物の角を曲がると探しに来てた弟と
ぶつかりそうになってた。


「リュウ・・、」

「どうした・・、!!」

「・・・!?」


さっきそこで、優弥達と出くわした事を
云おうとしたら突然、弟の手がガシ、と
あたしの体を雁字搦めに抱き締めたのだ。

後頭部も手で押さえつけられて
ピクリとも身動きが取れない。


「ルリちゃん、そのままにしてろ」

「え?」


小声の彼の声は何故か低い。

そしてあたしは・・殺気と云うものを
初めて弟から感じ取っているのだ。

それが増幅し、背中にさえ伝わる
緊張感に僅かにでも動けば
頭を押さえる大きな手にまた力が入る。


「優ちゃん! 行こうよ・・!」


腹立たしそうな、息切れたあの女の声。


「・・・。」


2人分の足音と気配がなくなっても
殺気だけはまだそこに燻っていて。


「嫌なものはさ、
無理して見なくたっていいんだよ・・。」


リュウが小さく呟いた。
まだ、あたしを離さないままで。