逃げ出したい想いも叶わず
あたしは優弥に連れられ
近くの映画館へ行った。

観たい映画ではあったが
この気持ちを抱えて
ロクに残りやしなかった。

彼だって・・
何とも思わない訳はないだろうに・・。


「なかなかいい映画だったな。」

「・・・そう?」


映画終了後・・
休み前と云う事もあり
館内は大変混雑していた。


「行こう」


そう云って笑った時には
もう手を握られていて・・。

駐車場、彼の車の手前、
思わず立ち止まってしまう。


「嫌よ」


行こうってドコに?
また、抱く気でいるの?
付き合うのが無理だから?

セフレじゃないのよ?

何でこんな事で
悩まなくちゃいけないの?

誰のせい? あたしが悪いの?
何から狂ったの・・?

彼、優弥が現れてから・・!


「・・・どうしたの?」

「ホテルは嫌・・。」

「・・・・瑠璃。」

「名前でなんか呼ばないで」

「・・・・。」

「あたしの事、もう嫌いになって。
もう・・疲れちゃった・・。」


その場に立ち尽くし、両手で顔を覆った。

何かから来る罪悪感が
あたしを押し潰すかに苦しい。

あくまでも普通に過ごそうとする優弥。

"女はいない"

そんな事、信じてもいないクセに
まして
彼が好きかどうかも解らないクセに・・

あたしは・・足立に抱かれてしまった事を
悔いているのだ。


( これだから・・嫌なのよ  )


相手の気持ちに
振り回されるのがイヤ。

自分のペースを崩されるのが
何より嫌い。

恋する人間より
性交だけの動物のほうがマシ

そう思ってたのに・・


「ねえ・・付き合うって何・・?」


恋は風邪みたいなもの・・
キスでうつり、
セックスで悪化する病気だ。

2人によって警戒心と云うマスクを剥がれ、
おかしな菌を体に取り込んでしまったのだ。

長い事、色恋沙汰を避けてきたお陰で
あたしの免疫は
確実に低下していたのだろう。