最初の頃は
ただ黙って紅茶や軽食を食べて帰る、
人畜無害なただの良いお客だったのに。



___ 忘れるはずもない、二週間前。

常連客でもある
女友達の亜矢<アヤ>の自宅。
誕生日パーティーをしたあの夜。

共通の友達と云う事もあり
年下男の姿もそこにあった。

バルコニーを開け放ち、
それぞれがグラスを手に行き交う内に

酒の力か、即席のカップルが
その場に出来上がっていく。

何となく女友達の企みを悟った。

常々、あたしに彼がいないのを
彼女は心配してくれていたから。

今考えると、来ていた
シングルの男達にハッパでも
掛けていたのではないかと思う。

そんな中、
あたしは猛烈にアピってくる
初対面の勘違い男に迫られて困ってた。

"あっちで2人で飲もう"と、
馴れ馴れしく肩を抱こうとする。

堪らず近くで談笑してた亜矢に向けて
助けてよ!・・と目でサイン。


「ちょっと! あ・・」


気付いて声を掛けた彼女より先に
間を割って入った来たのが年下男。

彼はあたしの腰を抱き攫うと
男から僅かも離れていないその場で
突然キツいキスをしたのだ。


「やだー! いつの間にぃ?」

「ベッド使っちゃうー? イヒヒ」


持って行かれて唖然としてた男が
さりげなくあたし達から遠ざかる中、

冷やかしの声が
まるで聞こえないみたいに彼は、
ポカンとしてたあたしを真正面に捕らえ、


「前からずっと好きでした。
俺、本気ですから・・!」


「「「「 えーーーッ!? 」」」」


イキナリの告白に皆は大騒ぎ、
なのに、勝手に自分の世界を作ってる
彼のその痛い眼差しに耐え切れず


「・・・それはどうも。」


はっと我に返り
目線を外して彼から離れた。

その後、あたしはコッソリと帰ったのだ。

亜矢が言うには


「彼、車だったから
エールしか飲んでないわよ?」


・・シラフでよく
あんな事が出来たものだと呆れた。

あれから、何も進展することはなく
彼はイゼン、
常連客の1人にしか過ぎなかった。



そして、今また
彼はこうして目の前に現れたのだ。