( 振り切って逃げるか・・?)


瑞穂は・・本気だ。
まさか、拉致してまで・・?

彼の遺伝子を残したいばかりに
人が変わってしまったのか。

此処で逃げなきゃ最悪、
無理やり受粉されて・・

ビニール・ハウスよろしく
どこかで臨月まで軟禁・・出産とか?

有り得ない、突飛なフルコースを
勝手に想像してゾッと身震いしてる。


「あれが見えますか?」


暗闇から手を伸ばした人物は、あたしの
背に胸板を近づけて顔の影を斜め上に表す。

指し示す顎の方向を見遣ると
エレベーターのドアの前に
イカニモな男達が二人立っているのだ。

ドアが開いた瞬間、男だったのを確認して
また同じ様に待ち伏せていた。

そして、エンジンが掛かったままの車に
向かって肩を窄めるアクション・・仲間か。


「此処は穏便に行きましょう。」


云う事を聞けば手荒くしない・・?

手荒くされるのは望まないから
コクンと黙って頷いた。

油断させて
いざとなれば喧嘩の覚悟もした上で。


「今日の所は戻って表から逃げて。」


( え・・・!? )


「静かに。そして急いで。」


男はそう云うとフッと手の力を抜いたのだ。

あたしは暗闇の中、
目を凝らすこともしないで一目散に
階段を駆け上がって行った。


( 一体・・何者? )


あたしはフラつきながら
云われた通りに表からそこを脱した。

駅の方向を向いた途端、
通行人とぶつかり、
おぼつか無い足で躓き掛けた。


「あっ・・・。」


片腕を掴まれて立たされる。

嫌な動悸がドクン・・!

条件反射であたしは抵抗し、
振り向くまま手を跳ね除けようとした。


「放してッ・・!」


パニック状態で目を瞑り、無茶苦茶に
両手の拳を振り上げようとしていた。

正面切ってその両手首を掴まれた瞬間。


「・・瑠璃ッ。」


その声がハッとさせ、顔を上げさせた。


「・・・・・。」

「・・・こっちだ!」


呆然となるあたしの肩をガッと抱き
駅とは反対方向へと誘って行く・・。