ー翌日ー

僕は鈴子の家へと向かった。呼び鈴を押すと、鈴子が笑顔で出迎えてくれた。
「鈴子、ごめんね。急に会いたいなんて言って」
「いいえ、嬉しいです。」
鈴子は嬉しそうに笑った。その無垢な笑顔に、僕の心はひどく痛んだ。
「鈴子、今日は大事な話があるんだ」
「はい、何ですか?」
僕は重い口を開いた。
「鈴子、僕たちはもう離れよう」
「え・・・?」
「僕は、君達に嘘をつき続けてきた。」
「『達』ってどういうことです・・・か・・・?」
鈴子は驚きの色を隠せないようだった。
「ねえ・・・ねえ・・・利久さん、どういうこと・・・?」
「僕には君と出会う前から一人の女性もいたんだ。君より二つ年上でね、体の弱い、大人しい子なんだ。僕は鈴子、お前も愛していた。けれど、彼女にはもう僕しかいない、頼れるのも僕だけなんだ。君はまだ若い。これから僕なんかより、好い人が見つかるだろう・・・」
「そんな・・・どうして・・・っ」
鈴子の頬に涙が伝った。鈴子は本当に心の底から僕を愛してくれているのだと改めて知った。
「貴方ともっと早く出会っていればよかった・・・そうしたら貴方といつまでもいることができたのに・・・」
「鈴子・・・」
泣き崩れる鈴子に僕は彼女の名前を呼ぶことしかできなかった。
さっきまでは晴れていたのに外では雨が降っている。まるで鈴子の心を表しているかのように雨が降っていた。
「利久さん、私貴方と離れます・・・このまま貴方をひき止めたって、前のような関係には戻れない。それに、もう私は貴方に迷惑をかけたくない。貴方の愛は今、この瞬間にもう私には無いからってわかったから・・・」
「鈴子・・・」
「さようなら・・・利久さん、貴方を愛せて、貴方に愛されて私、幸せだった。」
精一杯微笑んだ彼女はとても綺麗な顔をしていた。
僕は鈴子に別れを告げ、美冬一人を生涯愛そうと決意し、美冬の元へと向かった。
彼女の部屋へ入ると、美冬はやはりいつも通り本を読んでいた。
「利久さま?」
僕は美冬の傍へと行き、美冬を抱きしめた。
「さっき、鈴子に別れを告げてきた。」その言葉を聞いた美冬は驚いた。
「いままですまなかった・・・君はもう苦しむことはないんだ。ずっと君の傍にいるから、もう君を一人になんかしないから・・・」美冬は肩を震わせ、泣いていた。僕は一生美冬の傍にいることを決めた。