フィオレちゃんのおかげでペットトークが弾んでしまった。名前も聞かずに。

「あ、自己紹介がまだでした。私は花楓です」
「ああ、俺は……フェルだ」
「フェルさんですか、よろしくお願いします」

 ちょっと間が空いたのが気になるけど、まあいいか。
 私は舞踏会の事を聞くか迷った。仮面舞踏会だからあんまり話さない方がいいのかと思ったけど、お礼もしたい。でも、私だと気付かれてなかったらちょっと恥ずかしい。

「……舞踏会で会ったな」

 私が言うより早く、フェルさんが呟いた。

「気付いてたんですか」

 化粧してたし服装も何もかも違うから、気付かれてないかと思った。

「あの時はありがとうございました。本当に助かりました」

 私は頭を下げるとお礼を言った。フェルさんが居なかったら困りすぎて泣きそうだったと思う。良かった、変顔を晒さずにすんで。

「いや、いい。君みたいな子は絡まれやすいから気をつけた方がいい」

 フェルさんが優しく微笑む。……正直、ちょっと見惚れてしまう。仕方ない、美形なんだから。
 誰だって見惚れてしまうはず。老若男女問わず。ルチアだってこんな風に優しく微笑んだら誰だって見惚れてる。ルチアはそんな微笑みを見せることはほぼない。もしそんな表情を見せたら怖い……絶対何かを企んでいる気がする。

「そんな事ないです。私、普段はしっかりしてます」

普段っていつだ、って自分で心の中でツッコんでしまう。でも、私は結構しっかり者だと思う。自分では。

「そういう……事でも無いけど、まあいいか」
 じゃあどういうことなんだろう?ぼーっとしてるからってことじゃないんだろうか?

「ここにはよく来るのか?」
「いえ、二回目です。あまり時間が無いし、魔物が来たら怖いので……」
「店していると大変なんだな……。ここには魔物は近付かないように結界はってあるから大丈夫だ」

 この丘含め、町周辺には結界がはってあるらしい。町の近くで魔物に襲われたって聞かないのはそれだからだ。そう言われても、町の外に出ているから少し怖い。しかも、なんでこんなところに結界を張っているのだろう?町とか重要な施設ならわかるが、ただの丘に……。

「なんで結界を張ってるんでしょうか?」
 私が問うと、フェルさんは困った顔をした。フェルさんが知るわけないのに……思わずポロッと言葉にしてしまった自分が恥ずかしい。

「……ある人が好きな場所だかららしいよ」
 
 ある人……結界を張ってしまうのだから、身分が高い人なんだろう。丘全体に結界を張ってしまうのだから、かなり魔力の高い人に頼まないといけないはず。どれくらいかは私には想像つかないけれど。