仮面舞踏会当日、ギリギリまで宿屋の手伝いをしようと思ったけどエマさんに止められて大人しく準備することにした。と言っても、ドレスに着替える以外に何がある?

 エマさんに手伝ってもらってさっきドレス着たからもう終わったし……。

 このドレスはエマが若いころに同じように舞踏会で着ていたものをもらった。紫色でレースがたくさん使ってあるふわふわしたドレス。私のこの体系をカバーするのにピッタリだ。どうやらエマさんも私のように胸もお尻もぺったんこの体系を昔はしていたらしい。
 今もスレンダーだけど、ちゃんと出るところは出ている。私もエマさんみたいになれるかな。

 それにしても、まだ行くには早いしどうしよう?

 やることがないならと髪型をどうしようか悩んでいると、ドアがノックされた。私がドアを開けるとルチアが。なんでこんなところに、今?

「手伝いに来たよ、花楓」

 にっこりとほほ笑むルチアの隣には、ルチア付きの侍女エステルが何やら大きなカバンを持って立っていた。
 ルチアがここに来るのは二回目。エステルさんを連れてくるのは初めて。

「年に一度の一度のイベントなんだから綺麗にね」
 
「え、どういう……」

 私は訳が分からないままドレッサーの前に座らせられると、意見を言う間もなくエステルにされるがままの状態になった。


 エステルが鞄を片づけだした時、私は我に返った。よくわからないけど意識が飛んでいた。不思議。

「さすがエステル!花楓、鏡ちゃんと見て?」

 私は顔をルチアに言われるまま顔を上げて鏡を見た。そこには私であって私でない人がいた。
「私?」
「当たり前でしょ。メイクしなくても十分だけど、やっぱりするとまた美人になるわ」
「……でも、顔が隠れるから意味ないような……」

 私が呟くとルチアに睨まれた。でも、本当の事なのに……。でも、髪もセットしてもらえたからよかった。

「あ、エステルさんありがとうございました。髪型どうしようか迷っていたので助かりました」
 
エステルさんは片づけを中断すると、首を振った。

「ルチア様の大切なご学友ですもの、当然のことをしたまでです」
「さ、花楓行こう」

 私は半ば強引にルチアに引っ張られると、城に向かった。