『勇気。明日何の日か知ってるよね?』

雅が電話越しでそう言ったのは3月2日の夜のことだった。

明日?3月3日か…。

俺は溜息を一つ吐いてぶっきらぼうに「ああ」と答えた。

『良かった。じゃあ、明日うちに来てくれる?
お母さんがご馳走作って待ってるって。』

……おばさん。まだ、ひな祭りなんてやってるのか?

「相変わらずなんだな。おばさんは…。」

『あはは、まあね?イベント好きだから何でも理由をつけてホームパーティとかしたいのよ。きっと。』

雅のお母さんは料理が上手で、俺たちが小さいころは、毎年ひな祭りと、もう一つのイベントをかねてやっていた。俺はそれがすごく嫌だった。

女の子の節句によばれる事も嫌だったが、何よりも、あのイベントが嫌だったのだ。