携帯のディスプレイを見て兄ちゃんはため息をついた。
たぶんさっきの人からだ…。
「…出ないの?」
「いーの、いーの。」
無視を決め込むらしい。
それでも着信音が鳴り止むことはない。
「っんとに、しつこいな。」
「それだけ兄ちゃんのこと好きなんじゃない?」
「俺なんかの何が良いんだろうね。自分から逃げ出したくせに」
そりゃ彼氏から虐められたら誰だってね…。
「でも兄ちゃんのこと知っててやり直したいって言ってるんだったら、兄ちゃんの言う優しい人じゃないの?」
「んー…ちょっと違うかな。だって俺は、本当に優しい人を知っているから。」
……本当に、優しい人?
「それってもしかして…兄ちゃんの好きな人?」
「そうだよ。」
ズキンと胸が痛む。
だって見たこともない顔で笑うから。
「その人は特別なんだ」
「……付き合わないの?」
「付き合えたら良いんだけどね。」
ようやく携帯が鳴り止んだ。
「それより勉強しないと。明日赤点取っちゃうよ?」
「そーだった!試験明日なんだ!!」
兄ちゃんに気を取られてすっかり忘れてた!!
クスクス笑う兄ちゃんと、その日は徹夜で勉強するハメになった。


