ベッドに寝そべる兄ちゃんは何だかいつもよりも小さく見える。

弱ってるなぁ……。

子供をあやすような気持ちで頭を撫でた。


「早く良くなるといいね。」



ソッと離した手を不意に掴まれて勢いよく引かれ、体のバランスを崩した。



「え………!?」



一体何が?なんて考える間もなく僕の体はあっさりとベッドに沈み込み、しっかりと兄ちゃんの腕に抱き込まれている。



「え、ちょっ、兄ちゃん!離してよ!」
「んー……だめ。」
「だめって……ふざけてないで、ちゃんと寝ろよ。悪化する!」
「早く治すためには翔太の愛が必要です。俺の特効薬。」



抵抗すればするだけ腕の力は強くなる。

風邪引いてるくせに……どこにそんな力があるんだ……。



「……分かった。キスしてあげるから、ちゃんと寝て。ね?」
「…うーん、とてもいいお誘いだけど移しちゃいけないから今日はこのままハグしてたいかな。」
「このままって……このまま寝る気?」
「うん、翔太温かくて気持ちいいから。」



もぞもぞと寝る姿勢を取る兄ちゃんに再び抵抗を試みる。


このまま寝られたら堪ったもんじゃない。


だって父さんも母さんも帰ってくるんだよ?


この歳になって兄弟仲良く寝てましたなんて……無理があるだろっ!




「に、兄ちゃん!お願いだから離してよ!このまま寝ちゃだめだってば!」
「んー……」
「兄ちゃん!」


ドンッと胸を押し返して無理矢理拘束から逃れる。


僕の腕の分だけ開かれた距離。


押し返されたままの姿勢で、薄く開かれた目が僕を捕らえた。


「ーーーーーっ」



いつもは笑って細められている目が、真剣な色を持って僕を突き刺している。


「………ごめんね。」
「………ぇ?」
「……きっと離してあげるのが翔太の為なんだ。突き放してやるのが俺の役割なのに。」
「…兄ちゃん?」
「きっとこれは一番最悪な選択で……兄としては最低の人間で……」




力なく伸ばされてきた指先が僕の頬に触れた。



「……それでも好きなんだ。何よりも、誰よりも、この世でたった一人の俺の弟。」
「……兄、ちゃん」
「ごめんね、手離してあげられる強さがなくて。」


そう言って力なく笑った兄ちゃんは、ゆっくりと瞼を下ろした。

頬に触れていた手も力なく落ちていく。



「…ぇ……兄ちゃん?」


呼び掛けに応える声はなく、聞こえてくるのは少し苦しそうな寝息。



「………もう、馬鹿だなぁ。」



兄ちゃんは頭が良くて、運動も出来る。
外見も良くて、意地悪そうに見えて優しくて…


いつだって僕の前を歩く背中は自信があって……


そんな兄ちゃんが見せる唯一の弱さは、


僕への愛の囁きだ。




【番外編:それでも好きなんだ。END】