普段はとても意地悪で、人をからかってばかりいる僕の兄ちゃん。

そんな兄ちゃんでもとても弱気になる瞬間がある。


それは……


「ーーどう?」
「………38℃」
「まだ高いね…。」


ベッドに沈む兄ちゃんは苦しげに眉を潜めた。
昨晩からなかなか下がらない熱。


「食欲は?」
「……んー、ない。」
「少しだけでいいからお粥食べて。」
「……翔太が優しく、あーんしてくれたら食べる。」


布団に潜ったまま目元だけを出して、こちらの様子を窺ってくる。まるで子供みたい。


「…分かったよ、起き上がれる?」
「うん、やったぁー!」



元気そうに振る舞ってはいるけれど、本当は凄く具合が悪いんだってこと僕には分かる。


伊達に弟なんてやっていない。


「はい、口開けて。」


一口分のお粥をレンゲに乗せて兄ちゃんの口許へ運ぶ。

すると兄ちゃんはムッと口を尖らせた。


「違う。そうじゃないでしょ。もっと可愛く、あーんって言いながら」



…病人じゃなかったら殴ってたな。



「もう、いいから早く食べて薬飲んで安静にしてよ!」
「じゃあ、あーんって言って。」


ニコニコと笑い掛けてくる兄ちゃんは、僕が言うまで断固として口を開く気はないようだ。


「…………あーん」
「あーんっ、ん!美味し。」
「そ、良かったね。まだ食べられる?」
「もう一口だけ」
「うん。」


さっきと同じぐらいの量をもう一度口へと運ぶけれど、なかなか開いてもらえない。


「……口開けて」
「んー?」
「………………あーん」
「あーんっ、ふふ、ありがとう。」


満足そうに微笑む兄ちゃんを横目に薬を手渡す。

しっかり飲み干してから再びベッドへと寝転がったのを確認して、僕は椅子から立ち上がった。



「じゃあこれ片付けてくるから兄ちゃんはちゃんと寝ててね。父さんと母さんも遅くなるけど帰ってくるって言ってたから。」