「夏祭り、行かない?」


それは唐突に兄ちゃんから告げられた誘いだった。


「夏祭り?別に良いけど、兄ちゃんってああいう人が多い行事苦手じゃなかったっけ?」
「まあ、そうだね。でも翔太はお祭りとか好きでしょ?」
「う、うん……まぁ……」
「じゃあ行こうよ、ね?」


にこにこと笑う兄ちゃんに警戒心が募る。

これは今までの経験上から仕方ない心境だ。



「……何か企んでる?」
「えー、酷いなぁ。俺は純粋に翔太と夏の思い出を作りたいだけだよ。」
「……………………………」


心外だなぁ……なんて言う顔も全然そんなこと思ってなさそう。


「わたあめ、買ってあげるよ?」
「わたあめ!」


僕は怪しむ心なんてあっさり捨てて、わたあめのワードに食らいつく。


「ね、だから行こうよ?」
「行く!」
「花火も一緒に見ようね?」
「見る!」



なんて会話をしたのは数日前で、この時の僕の頭はわたあめでいっぱいで、兄ちゃんがニヤリと意地悪く笑ったことなど気付きもしなかった。




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そして訪れた夏祭り当日。



「はい、これ。」


出発前手渡されたのは紺色の浴衣だ。


「……何これ?」
「浴衣だよ。夏祭りなんだから当然でしょ。」
「着ろってこと?」
「もちろん。ほら、早く早く。」


と僕の衣服に手を掛け始める兄ちゃんを全力で押し返す。



「わ、分かった!着るから!自分で脱げるから!」
「えー、遠慮しなくてもいいのにぃ。仕方ない、じゃあ待ってるね。」


あっさり身を引いた兄ちゃんは自分の部屋へと入っていく。


仕方なく僕も自分の部屋へと移動して浴衣に腕を通した。



「……こんなの着たことないけどこれで合ってるのかな?」