力の差がこんなにも歴然としているのだから、今ここで2人してやられるよりは。


「そうだな・・・賭けてみるか」


 思い直して、彩は言った。
 このままでは、美樹も危ない。
 それならば、美樹だけでもここから逃がした方がいい。


「こいつはあたしが引き付けておく。だから美樹、あんたは走って店に戻る」
「え? ・・・彩は?」
「言っただろ。大事な店、壊されちゃたまんないからね」
「でも」


 また言い返そうとした美樹を、彩はふっと笑顔を作って見返した。


「美樹。あたしは“いなくならない”から。だから美樹が、この状況を打開する『鍵』なんだよ」


 いなくならない。
 この言葉が、これだけ嬉しく感じたのは、生まれて初めてだった。
 美樹は、彩に笑いかける。
 腕の痛みは、消えないけれど。


「うん、うまくいくかはわからないけど・・・」
「大丈夫。きっと上手くいくよ」


 美樹は頷く。
 少し目配せして、タイミングを見計らって美樹が少し後退りする。