「どこにいても居場所が分かるってのも、善し悪しだよなぁ」


 真っ直ぐに海を見つめたまま、大して驚きもせずに彩は言った。
 悠や諒にはこっちの気配はわかっても、あいにく彩はその気配を掴むのは苦手だった。
 “殺気”なら割りと簡単に感じるのだが。


「今は貴重な“一人の時間”なんだよ。分からないかなぁ、乙女心ってやつ」
「知ってるけどな。わざわざ来てやった」


 諒の言葉に、彩はやれやれ、とため息をついた。
 わざわざどうも、と皮肉っぽく言い返す。


「ひとつ、気になることがあるんだけどさ」


 彩は言った。


「美樹って、本当は何者?」


 諒はただ、黙っているだけだった。
 彩は膝を抱えると、ため息を吐く。


「そりゃあね、あたしはただの人間だから、あんたらが分かってること、全部分かんないけどさ」
「雨、降ってくるぞ」


 諒がそう言って、店のほうに歩き出す。
 あ~もうマジムカつく、とか呟きながら、彩も諒の後ろを歩きだした。