「二人まとめて掛かって来ないのか?」


 まるで、嘲笑うような言い回し。


「そうじゃなければ、俺には勝てない」
「彩、早く行け」


 アヤカシの言葉を無視して、諒が言った。
 美樹の所へ行けというニュアンスの他に、聞かれたくない何かがあるように、彩は思う。
 どういう事なのか分からなかったが、彩は一刻も早くこの場を立ち去らなくてはならない。
 自分がここにいるから、悠も諒も、戦いにくいのだ。
 それだけは理解することが出来た。
 だがふと、不安になる。


「2人とも、大丈夫なの・・・?」
「大丈夫だ。俺達を信じろ」


 とん、と背中を押される。
 何故か、彩の目頭に、じんとした熱が湧き上がった。
 だがすぐに、彩はその熱を振り払うように、頭を軽く振る。
 ――今生の別れでもあるまいし。
 顔を上げると、彩は真っ直ぐに防波堤に向かって走り出した。