それにしても、さっきから妙な視線を背中に感じる。
 その正体はわかっている。
 店の一番奥の席に座って小説を読んでいる、さらさら髪を後ろに束ねた、眼鏡をかけた女性だ。
 仕事帰りなのか、いつもこの時間、何時間かここで小説を読んで帰る。
 だが諒は、彼女の目的は本当に本を読む事だけなのだろうか、と疑問に思い始めている。
 その証拠は、諒が背中を向けた途端に突き刺さる彼女の視線。
 そして何日もずっと同じ真ん中あたりを開いた小説のページ。
 諒が振り向くと、慌てて小説に視線を落とし、読み進めているようなのだが。
 少し気配を探ってみるが、彼女はれっきとした人間で、アヤカシではない。
 能力も持っていない。
 だから敵ではないらしいが・・・。