「わたしとしてはあなた達と同居するなんて全く聞いてないから、せめて直接中川さんに確認しようと思って」
「あの婆さんも気まぐれだからねぇ・・・それに、色々と忙しいし」
「でも」


 何か言い返そうとしたのだが、彩がぐいっとこっちに顔を近づけた。


「あの婆さんはどうしても美樹をここに住ませたかったんだよ。でも一人じゃ危険だから、あたし達をここに寄越した」
「危険って・・・わたし、今までも一人でちゃんと生活してきたし、こんな田舎で危険なことなんて」


 大都会でもない自然豊かなこの街で、今まで身の危険を感じたことなんて一度もなかった。


「ま、そのうち分かるよ。『危険』の意味が」


 そう言って、彩は軽く手を上げると家の中に入っていった。


「もう・・・何なのよ」


 深いため息。
 美樹の両親は、高校卒業間近に事故に遭っている。
 嵐の日、海岸沿いを走っていてバンドル操作を誤り、車ごと崖下に転落した。
 父親の遺体は見つかったのだが、母親は結局見つからなかった。
 あれから5年、何とか1人で頑張ってきたつもりなのに。
 ふと気が付くと・・・いつも寂しくて。
 美樹は、店のカウンターにもたれかかって目を閉じる。