私は大切なものを一つ失った。それは、夢。
でもまだあきらめられない事がある。

私は今日、高校一年生になった。
といっても正直、中学高校一貫なので特別どきどきすることもなく入学式を終えた。
クラスは一年四組だった。中学からの友達の佐々木花音と同じクラスだった。花音とは中二の時からの友達で、見た目はおとなしそうだが仲良くなるとすごくおしゃべりになる。私の夢をあきらめざるを得なくなった理由を知っている数少ない一人であり、大事な親友だ。
花音と一緒に教室に向かっている途中の廊下で
「すいません」
と声をかけられた。振り返ると男子が一人いて、まっすぐな瞳で私を見ていた。
「私?」
「はい!」
と言って大きく深呼吸をして、
「ずっと前から好きでした。付き合ってください!」
と言われた。
ずっと前からということは中学も一緒だったんだー、見たことないなぁなどと思いつつ私は返事をした。
私の答えは決まっている。
「ごめんなさい。」
私がそう言うと、男子は、
「分かりました。」
と言って去って行った。
いままでも何度か告白されることはあった。
でもいつでも私の答えは決まっている。
「ごめんなさい。」この一言だ。
きっとこれからも変わらないと思う。
告白されるたびに一人の人が私の頭に浮かぶ。
もうどこに行ってしまったのかも分からないのに……

「悠衣!」
「ごめん、ぼーとしてた。何―?」
「何じゃないよ!もう何回目だと思ってるの?毎回毎回振られていく男子見るの。可愛そうになってくるわー」
あきれたような笑いを混ぜながら花音は喋り続ける。
「何があったか知らないけど、後悔しないようにねー。まぁ悠衣がいいならいいけど。」
「なんかお母さんみたいー」
と笑いながら言った。
「人が心配してあげているというのに軽く流すなー!」
「ごめんて!ありがとう花音」
と言ってニコッと笑った。
やっと教室に着き、席を確認する。窓際の後ろから二番目だった。花音は真ん中の列の前から三番目で最悪と呟いていた。
クラスは結構見知った顔が多かった。

席につくと先生が入ってきた。私は窓から空を見ながら考え事をしていた。
今日の告白の事だ。私は花音にも言っていないことがある。
花音に限らず誰も知らない。私しか知らないこと。
ずっと忘れられない。私はまだその人の事を……

「キ……サン」「き…ら…さん」「木村悠衣さん」
「は、はい!」
私はあわてて返事した。
「いるなら早く返事してください!」
と言われ、先生は再び出欠の続きをとり始めた。
私はまた空を見上げ、あの人は今頃どこで何をしているのだろう。いるなら出欠みたいに返事してくれたらいいのになぁ……なんて思ってみたりした。