「彼方みたいな人に初めて会った」

透子がフフフと柔らかく笑う。

「そう?僕みたいなヤツはどこでもいるよ。つまり“僕”なんてどこにもいないんだ」

「じゃあ、あたしが見ているのは誰?」

「知らない」

僕はそっぽを向いて冷たく言い放った。

それでも透子が真っ直ぐ僕をみているのがわかる。視線をそらさないで。
これじゃあまるで僕が逃げたみたいだ。