熱帯夜

「先にチケット買っておいた方が良いよね?」

「西川さんっ大丈夫っす!俺、良い席確保して来ました!」


ちょっと待って…

一時間以上も前に来てたって事?!

この子、尽くすタイプなんだ。


「え、本当?」

「お前マジか?!(笑)」

「意外と頼もしいんだねぇ」

「何だよ、それは俺にも見習えって事か?」

「別にぃー(笑)」

「あーあ、こりゃ振られるな」

「何だよ、からかうなよなー」


「じゃあチケット代払わなくちゃ!」

「今日は俺の奢りっす!あ、でも他は割り勘でお願いします…」


赤くなりながら言う彼は、本当に良い恋をしているんだなと思わせた。

決して報われる恋ではないのに…。


「良いのー?わーい!」

「お前…(笑)」

「何すか!(笑)良いじゃないっすか!俺が行きたいって言ったんで、良いんす!」


ますます赤くなる彼。


「優しいんだね。ありがとう」

「いや、あ、いいんすよ…」


彼女の方は気付いていなかった。
彼もそれは知っているらしかった。
そんな空気を、今吸った気がした。



淡い恋の吐息。