「よぉ」


会社のエントランスで後ろから肩を叩いてきたのは同じ営業部の片山寛人だった



2年前、この会社の営業部に配属されてから仕事を教えてきてくれた先輩だ


2つ年上の寛人だが人懐っこい性格で私にとっては何でも話せる存在だった



「なんだ寛かぁ…おはよ」


「なんだとは何だよ、月曜から湿気た顔してんな」



いくら何でも言えない…



私、この会社の社長と結婚したんだなんて言える訳ない…



それ以前に信じてもらえる訳もない




「寛、来週末のプレゼン資料作ってきたの?

ある程度仕上げて明日までに課長が見せろって言ってたよ」



「マジで?やべ、俺メーカーと価格交渉終わってないのに」



隣で慌てる寛人が面白くて、いつの間にか私はケラケラ笑っていた





そんな様子を私のため息の元凶である、あの人が見ているとも知らずに…