「……玲、腕を上げて」
静かな声がして、玲が目を開けると、暗がりの中、ランプに照らされた佳孝が玲の横で跪いていた。
「これ、やろう」
佳孝は浴衣の帯を差し出し、真剣な表情で言う。
それは、この保養所で去年初めて試した遊びだった。
玲は少し笑って、こくりと頷き、仰向けのまま、両腕を上げ、頭の上で交差させる。
玲の両手首を佳孝が帯でしっかりと縛り、玲の自由を奪う。
ただそれだけなのに、佳孝はいつもよりもずっと貪欲になった。
自由を奪われた玲を楽しむかのように、いろんな格好にして攻める。
まるで、淫らな玲を罰するかのように。
そして、玲もいつもよりもっと敏感になった。
佳孝の息遣いが荒くなり、玲を揺らす。
その動きが激しくなるのと比例するように玲の声は悩ましく大きくなる。
叫ぶような声を出しながら、正直な玲の身体は佳孝よりも早く、達してしまった。
「たまには、布団でやるのもいいな…」
佳孝は帯を解いたあと、玲を腕の中に抱き、ぼんやり呟く。
玲は笑顔で頷いた。
いつものことだが、避妊はしなかった。
佳孝と豊の違い。
それは避妊をするか否かだ。
真夜中、玲はふと目覚めた。
天井がいつもと違う。
ここがどこなのか、わからなかった。
(ああ…そうだ。
旅行で熱海にきてるんだ…)
自分が布団で寝ていることに気付き、玲は思いつく。
玲が寝返りを打ち、横を見ると隣の布団で寝ているはずの佳孝がいなかった。
(トイレかな…)
ぼんやりした頭でそう思った。
部屋にはトイレが付いていた。
しかし、灯りは灯されていなかった。
しん、として人の気配がなかった。
暗い部屋の中で、一瞬、玲の全身に鳥肌が立つ。
不吉で恐ろしい予感。
佳孝が誰かにさらわれてしまった気がした。
玲は乱れた浴衣を直し、佳孝を探しに、部屋を出た。
館内は静まり返り、暗い常夜灯が不気味に廊下を照らしている。
(何時なんだろう…)
辺りを見回しても時計は見つからない。
階段を降り、ロビーに出る。
照明の落とされたロビーは静寂に包まれていた。
背もたれのない黒いビニールの長椅子がいくつか置かれていたが、人の気配はない。
(誰もいない…)
玲が踵を返したその時。
男の声が一瞬聞こえた。
玲は振り返った。
ロビーの隅に置かれた大きな棕櫚(しゅろ)の鉢植えのそばに、浴衣姿の男が隠れるように立っていた。
男はガラスの向こう側の日本庭園の方を向き、ボソボソと携帯で話をしていた。
その男は背格好からして佳孝に違いなかった。
佳孝の表情はわからない。
玲は直感した。
佳孝は女と続いていた。
ロビーに置かれた柱時計は午前2時を指していた。
玲は絶望感に襲われ、その場から逃げ出した。
静かな声がして、玲が目を開けると、暗がりの中、ランプに照らされた佳孝が玲の横で跪いていた。
「これ、やろう」
佳孝は浴衣の帯を差し出し、真剣な表情で言う。
それは、この保養所で去年初めて試した遊びだった。
玲は少し笑って、こくりと頷き、仰向けのまま、両腕を上げ、頭の上で交差させる。
玲の両手首を佳孝が帯でしっかりと縛り、玲の自由を奪う。
ただそれだけなのに、佳孝はいつもよりもずっと貪欲になった。
自由を奪われた玲を楽しむかのように、いろんな格好にして攻める。
まるで、淫らな玲を罰するかのように。
そして、玲もいつもよりもっと敏感になった。
佳孝の息遣いが荒くなり、玲を揺らす。
その動きが激しくなるのと比例するように玲の声は悩ましく大きくなる。
叫ぶような声を出しながら、正直な玲の身体は佳孝よりも早く、達してしまった。
「たまには、布団でやるのもいいな…」
佳孝は帯を解いたあと、玲を腕の中に抱き、ぼんやり呟く。
玲は笑顔で頷いた。
いつものことだが、避妊はしなかった。
佳孝と豊の違い。
それは避妊をするか否かだ。
真夜中、玲はふと目覚めた。
天井がいつもと違う。
ここがどこなのか、わからなかった。
(ああ…そうだ。
旅行で熱海にきてるんだ…)
自分が布団で寝ていることに気付き、玲は思いつく。
玲が寝返りを打ち、横を見ると隣の布団で寝ているはずの佳孝がいなかった。
(トイレかな…)
ぼんやりした頭でそう思った。
部屋にはトイレが付いていた。
しかし、灯りは灯されていなかった。
しん、として人の気配がなかった。
暗い部屋の中で、一瞬、玲の全身に鳥肌が立つ。
不吉で恐ろしい予感。
佳孝が誰かにさらわれてしまった気がした。
玲は乱れた浴衣を直し、佳孝を探しに、部屋を出た。
館内は静まり返り、暗い常夜灯が不気味に廊下を照らしている。
(何時なんだろう…)
辺りを見回しても時計は見つからない。
階段を降り、ロビーに出る。
照明の落とされたロビーは静寂に包まれていた。
背もたれのない黒いビニールの長椅子がいくつか置かれていたが、人の気配はない。
(誰もいない…)
玲が踵を返したその時。
男の声が一瞬聞こえた。
玲は振り返った。
ロビーの隅に置かれた大きな棕櫚(しゅろ)の鉢植えのそばに、浴衣姿の男が隠れるように立っていた。
男はガラスの向こう側の日本庭園の方を向き、ボソボソと携帯で話をしていた。
その男は背格好からして佳孝に違いなかった。
佳孝の表情はわからない。
玲は直感した。
佳孝は女と続いていた。
ロビーに置かれた柱時計は午前2時を指していた。
玲は絶望感に襲われ、その場から逃げ出した。