今野瀬遥は今野瀬家の四番目の子供だった。八つ上の兄と、六つ上の兄と、二つ上の姉がいた。長男のワタルは父親の血をまっすぐに受け継ぎ、役所仕事に励んでいる。次男のマモルはその体力を活かし、地元の警察署に勤務。長女のシズカは小学校の教師を経て、地元の国立大学時代の同僚と結婚するらしい。「…するらしい。」というのは今のハルカの精一杯の情報力を表している。去年、地元に残った数少ない友人から、電話でそんな話を聞いた。本人とは十年以上の間、話をしていない。もしかすると、もう名字が変わっているかもしれない。が、まぁいい。もう帰る気もないし、居場所なんてない。初めからない。だからハルカは早く今野瀬でなくなりたかった。 そもそも、なぜそんな悲劇の状況に陥ったかというと、全て父親のせいだった。あの憎き男の家に流れ着きさえしなければ、また違う人生だっただろう。