「なんでこんな高いトコロに棚があるのよ！ねぇ、ちょっと！手伝ってよ！」
「ん。あぁ。」
…懐かしいだけの思い出。虚しいだけの思い出。彼はこの一週間、そうやって行動するたびに涙を流した。トイレに行っても、カーテンを開けても。
そしてそのカップラーメンを、泣きながら手にした彼は、また緑の紙を見た。あの日から一週間が経ち、その紙は変わり果てた姿になっていた。小さくなって、「ごめんなさい、ごめんなさい。」と謝っているかのようだった。しかし、彼にはその紙のただならぬオーラが、光の矢となって、自分の胸に突き刺さり、その痛みから吐き気までもよおしていた。すでにその紙は、彼に絶望と悲しみ、そして怒りを与えていたが、ついに痛みまで与えた。それでもその緑の紙は謝っていた。謝りながら「ごめんなさい。痛いでしょう、だからお願いします。アナタのシルシを・・ホラ、ここに・・さぁ！」と、彼をそうやって促した。
「もう・・ダメだ・・」
その紙は彼に最後の感情を与えた。それは「諦め」。失望である。そして、彼は手にしたカップラーメンを置き、テーブルの向こうに叩きつけられた、丸くなった緑の紙を拾った。その瞬間、彼の足元が大きく揺れた。いや、揺れていたのは彼だけであった。この一週間の心労のせいで、彼をその両足で立たせている「力」がついに切れたのである。彼はバランスを崩し、その場にあったイスにしがみついた。そのイスは元々彼女の席の物で、今は主を失くしていた。いわば失業中の身であった。彼はそのまま体の向きを変えて、そのイスに座った。そうして、やっとワタシと向き合った。二人が結婚してからの三年と二ヶ月、供に過ごしてきたワタシと、ようやく向き合ったのだ。
「もしもし？ユタカ？・・アレ？オーイ！」
返事がない。彼は緑の紙を右手に握ったまま、そして彼女のイスに座ったままで眠ってしまった。
「いいわ。大事な出会いですもの。後でじっくりとしましょう。今は、おやすみなさい。」
ワタシは知っていた。彼がこの一週間の間、キチンと眠っていなかった事を。