田口豊は今、この世の終わりを迎えた。この緑の紙は彼に宣告していた。「アナタにはもう与えられる空気も水もなければ、この世における役目もない。だからそっと、その営みを閉じなさい。」と。しかし、とは言っても、その紙はそこまでの主張はできないし、必要事項を記入した彼女もそこまでの意味は持たせなかった。むしろ、お互いの幸せや、未来を見据えて彼女はそこに名前を書いた。だが、彼にはもっと強く、そして、冷たい印象をその緑の紙から受け取った。
ナゼ？ドースル？オイカケル？ドコニ？ジッカ？…いや、まて。そもそも僕がナニをした？
「僕がナニしたってゆうんだ。」
やっとの想いで声にした言葉だった。それを口に出すと今度は怒りが込み上げてきた。その怒りの勢いを借りて、彼は上着の内ポケットから携帯電話を取り出すと、彼女にその紙の意味を問うべく、電波を投げ付けた。が、その電波もあえなく彼女の手前で分厚いカベにブチ当たり、情けないガキの使いとなって彼の元へ戻ってきた。彼はまだ怒りが収まらず、また投げ付けた。が案の定、戻ってくる。しかし、彼は何度も何度も投げた。そのうち、間違って彼女の元に届いてしまうのではないか？その分厚いカベにヒビが入って、彼の怒りの想いが彼女に届いてしまうのではないか？と思えるほどだった。だが、彼女の携帯電話の守備能力は揺るがなかった。そうしている内に彼の携帯電話の体力がなくなり、彼より早く眠りについた。時計の針は午前二時をさしていた。
「ボクがナニをしたってゆうぅぅ」
彼の言葉にならない声を合図に涙があふれた。それは彼が怒りの中にいようと、冷静に、そして落ち着かなければならないと思っていようとも、関係なくあふれた。
その後、彼はそのままの姿勢で朝を迎えた。一睡もしていないようだった。ワタシは彼に伝えなければいけなかった。彼女の理由と、彼の進むべき道を。