私の後ろの彼の顔を見て、美香が助かったというような顔をしていたが、そんなこと気にならなかった。
「……ただいま、由乃」
ポンッ、と私の頭に手が置かれて、優しい彼の声が耳に滑りこむ。
詰まるような胸の痛みを抑えるように、私はセーターの裾をギュっと握りしめた。
「おー檜山、久しぶりー
んじゃ、由乃のお説教が始まらないうちに退散するとしますかね」
夫婦喧嘩に首つっこむと犬に蹴られて死んでしまう、なんて色々ツッコミ所満載な台詞を残して、美香は写真撮りの行列の中に突っ込んでいく。
あ、とつい待ってというように中途半端に伸ばした私の手は、後ろからのびてきた彼の腕と絡まった。
「毎日顔あわせてる村野には構うくせに、俺にはおかえりの挨拶もなし?」
首もとから前にまわり、お腹の前でくまれた手。
背中に感じるその温もり。
たった一ヶ月ちょっとなかっただけなのに、今は確かに存在するそれに泣きそうになる。


