ナツメ

わがままついでに、もう一つお願いしてみた。
途端にナツメの手が引っ込んでいく。

「なん、いやいい」

なんでと聞こうとしてナツメが止めた。

なんで? と、聞かれたら答えは一つしかない。

だから止めたんだろう。
聞きたくないのだろう。

こんな異常な状況で、好きだの愛してるだの、そんな言葉はいっそ陳腐だ。

言ったなら、言われたなら、わたし達は現実へと立ち戻る。

だから言いたいけれど言わない。
聞きたいけれど聞かない。