ぼくが住んでいたのは田舎の小さな村だったから、新しい移住者がくるという噂は一日で村中に広まった。

 エミルのことを知ったのも、彼女たちが越してきた日のことだった。

 夜、夕飯の準備をしながら母さんが言った。

「今日越してきたお家、あなたと同い年の女の子がいるみたいよ」
「本当っ?」

 新しい友達の登場に、ぼくの心はおどった。 この村には子供が少ない。当然、ぼくと同年代の子供も少なかった。

 期待に満ちた瞳で母さんを見上げると、母さんは少し困ったような顔をしていた。

「残念だけど、多分一緒に遊ぶのは無理だと思うわ」

 母さんはエプロンで手を拭いながら続ける。「その子、病気らしいのよ」

「病気?」

「詳しくは知らないけど、肺が悪くてあまり外に出られないんですって」

 ぼくらの村に越してきたのはその子の療養のためで、もとは都会に住んでいたそうだと母さんは言った。

「そっか……。じゃあ仕方がないね」

 落胆するぼくを気の毒に思ったのか、母さんは腰を折って目線をぽくの高さに合わせる。

「でも遊びに行ったらきっと喜んでくれるんじゃないかしら。その子もきっと友達が欲しいはずよ」
「──うん!」

 そして次の日から毎日のように彼女の家へ通うことになった。