「でも彼女は厳しいぞ。
俺に対してもかなりキツイ」

「そうなの?」

「ああ。テニスに関してもそうだが…
莉奈に関しては特にな」

「私?」

「ああ。何年も日本で待たせてるなんて
最低だと散々言われているよ」

「本当?」

「そのことに関してだけは
卑怯者だの甲斐性なしだのエゴイストだの
悪の権化みたいな言われようだぞ」



秀明に向ってそんな暴言を吐けるのは
世界広しと言えどもヨーコくらいなものだろう。


でも驚いた。


まさか私の知らないところで
そんな風に私に対しての
心配りをしてくれていたなんて。
今日の彼女の刺々しい言動からは
とても想像できない。
けれどそういうことなら前言撤回。
彼女とは案外いい友達になれるかもしれない。


「俺達が離れて暮らしている事が
理解できないらしい」


愛しているから共に暮らしたい。
共に暮らせば家族となって
いつもそばで支えあいながら生きていく。
そんな家族ありきの人生観を
当然の事として育ったヨーコには
仕事ありきの遠距離恋愛や単身赴任なんて
到底理解できない事なのだろう。



「まぁ…今回はちょっと別の理由もあるらしいが」