明らかにイラつきながら、イラつきをぶつけるようにキョウちゃんは豪快なバタフライで水をかく。
バシャンバシャンと大きな水しぶきを上げながら、乱暴な潮吹きクジラのように私の目の前から立ち去るキョウちゃん。
――だ、ダメだ。
なんでこうなっちゃうんだろう。
今日は素直になるって決めてたのに。
ちゃんとキョウちゃんに向き合うって綾音と理子ちゃんに約束したのに。
やっぱり私はキョウちゃんを怒らせる天才だ……。
50Mをあっという間に泳ぎ切って、綺麗なターンを決めてこっちに向かってくるキョウちゃん。
ありえないほどの水しぶきと、その鬼のような形相からキョウちゃんの激怒の度合いが伝わるようだ。
私って…バカだな…。
カワイイコト一つも言えずに、悪態ついて、キョウちゃんを怒らせて……。
ハァとため息を吐きながら、しゃがんだまんまキョウちゃんの泳ぎを見つめていると、キョウちゃんは私のしゃがんでいる真下にあるゴールにトンと手をついてゴールを決める。
「あ…の……。」
こんなに至近距離にいるのに
息遣いすら聞こえるほど近くにいるのに
視線ひとつ向けてくれなくて
言葉一つもかけてもらえなくて
なんだか寂しい気持ちを抱えながら、キョウちゃんに声をかけると
「…同情なら帰れ、美織。」
キョウちゃんは俯いたまんま
小さく呟く。
――え……??
キョウちゃんが初めて発した心の内に驚いて、小さく身を乗り出すと
「俺は…こんな情けねぇ姿はオマエに見られたくない。」
「…キョウ…ちゃん??」
「わかったら…帰れ。」
そう言って、キョウちゃんはまた水の中へと戻っていってしまった。


