吉良光太郎が消えていった扉の奥からは、大きな大きな声援と選手紹介を告げるアナウンスが聞こえる。
廊下は相変わらずの喧騒で試合前のピリピリしたムードに包まれている。
そんな中
私は顔を真っ青にしながら、ただただ絶望していた。
私の過去を知っている。
誰も知るはずのない秘密をあの悪魔は知っている。
もしかしたら…拓真くんも??
何も言わないし尋ねないけれど、あの悪魔は拓真くんにも告げているかもしれない。
――どうしよう…。どうしよう…!!!!
それだけでも気が狂いそうなくらい苦しくて、上手く呼吸ができない。
キョウちゃんがあんなふうになってしまった原因があの事件なのだと。あの雨の日の一件なのだと知って、私は心の底から絶望していた。
不幸なのは私だけでよかったのに。
あの事件で苦しむのは私だけでいい、そう思っていたのに。
キョウちゃんを恨む一方で、あの事件のトラウマは私だけのものであってほしいと、私は心のどこかで思ってた。
『オマエが悪い』
理由はわからない。
わからないけれど、原因は私にある。
私が悪かったから
私が何かをしたから
キョウちゃんは…あんなことをした。
悪いのは私
そう…ずっと思ってた。
だから、この苦しみは私の業のようなもので、私が人生をかけて乗り越えるべき課題。
だからこの苦しみは私だけのモノ。
誰と共有することも分け与えることもない。
キョウちゃんとは関係のないコト。
これはキョウちゃんに負わせてはいけない、私だけに課せられた心の枷(カセ)
ずっと…、ずっとそう思ってた。


