だからこそわからなかった。
あんなに素晴らしいレースをしていたのに。会心の出来ともいえる泳ぎを見せていたのに、あっさりと失格負けをしてしまったキョウちゃんの真意がわからなかった。
いつものキョウちゃんなら。
私が知っている、強い強いキョウちゃんなら、わざと負けたりなんてしたりしない。
絶対に絶対に、したりしない。
『なんであんなコトしたんだろう』
あの光景を見てからずっと、心の中にくすぶっていた、その疑問
確信犯的な吉良光太郎のあの笑顔
そして最後に発したあの言葉
『全部全部、おねーさんのせいなんだよ??』
疑問の点と点がつながり
小さな小さな線になる。
犯人は吉良光太郎
そして原因は…私
私をネタに……吉良光太郎はキョウちゃんに“何か”を仕掛けた。
そこまで考えが至った瞬間
――まさか……、まさか……!!!!
私は万に一つの可能性に気づいてしまった。
吉良光太郎は…
あの日のコトを知っている…!?
あの忌まわしい日を
雨の音に起こった私とキョウちゃんだけが知る秘密を餌に…キョウちゃんを脅迫していたんじゃ…!!?
『イヤ…!イヤだ、キョウちゃん…!!!』
『バカな美織。
どうして安全パイだなんて思ったの?
俺だって
ちゃーんとオトコなんだよ??』
そこに思いが至った瞬間
心臓がドクドクとありえないぐらいに鼓動が速くなる。足がガクガク震えて、指先が凍える程に冷たくなっていく。


