悪魔のように冷たい笑顔を向けながら、扉の向こうに消えていった吉良光太郎を見送りながら、私の頭は完全にパニック状態に陥っていた。
――私が原因…??
ワガママで
俺様で
どうしようもなく自己中なキョウちゃんだけど…、いつだって彼は競泳に対してだけは真面目で、真摯で、誠実だった。
吉良光太郎が陰謀を張り巡らせて嫌がらせをしようとも、脅そうとも、それに簡単に屈するキョウちゃんではないことを私は誰よりもよく知ってる。
競泳はキョウちゃんにとって“生きている証”そのもの
その競泳を汚すようなことは、キョウちゃんは決してしない。
脅されようと、何をされようと
競泳はキョウちゃんの生きている証そのものだから、彼は決して屈さない。
ずっと……
ずっと引っかかってた。
キョウちゃんの調子が崩れたと知った時
私は迷いなく吉良光太郎、あの天使の顔した悪魔のコトを疑った。
『アイツが何かしたに違いない』
そう思っていたけど…
一言物申してやろうと思って向かったSGスイミングスクールで、一生懸命泳いでいるアイツの姿を見て、私は確かめるのを辞めたんだ。
勝負の世界なんだから仕方ない。
そう思ったのも本当。
それよりも私はこう思っていた。
『何があろうとキョウちゃんは屈さない』
信じていたんだ。
キョウちゃんの何物にも屈さない不屈の闘志を。


