雨が見ていた~Painful love~





関係者だけが入れる、日本選手権の舞台裏はレース前の独特な緊張感に満ち溢れている。



ストレッチをする選手。
コーチと最後のレース確認をする選手。



思い思いの形でレース前の時間を過ごしている関係者の波を押しのけて、キョウちゃんのいる控室目指して走っていると



「あ、おねーさん。」


「……吉良光太郎…!?」



競泳水着に身を包んだ吉良光太郎に声をかけられる。




どうやら吉良光太郎はコレからレースのようで、予選7組の選手がずらりと一列に並んでいる。




ニッコリと天使のように
だけどどこか禍々しいオーラを放つ、キョウちゃんのライバル。



なんだかその笑顔にムカついて
何が理由なのかはわからないけれどムカついて。




「……私…、急いでるから!!」



自分でもびっくりするくらいのキツイ口調で吉良光太郎に言い放って、クルッと顔を背けてその場を通り過ぎようとすると



「あ、ちょっと待ってよ、おねーさん!」



ニコニコ顔の吉良光太郎に肩をグイッと掴まれる。




――え…!?



驚いて振り返ると


「藤堂に言っといて。『いい負けっぷりだったよ。大満足。』…ってさ??」


悪魔のように黒い灰色のオーラを纏いながら、耳元で吉良光太郎はこんなことを囁く。