「きょ…うちゃん……。」



キョウちゃんの奇行に、会場中が水を打ったように静かになる。



――なんで…??

どうして!!?



間違えて立ち上がったワケじゃない。
そんなおバカなこと、キョウちゃんがするワケないもの。


確信犯だ。
キョウちゃんはワザとこの場に立って見せた。



それ以外に考えられない。



でも…どうして?
キョウちゃんロッカールームで言ってたじゃない。



『霧は晴れた』って……。


アレは……
勝つための決意を決めた…って意味でしょう!?






呆然としていたのは私だけじゃない。
喜多川君も拓真くんも『信じられない』と言いたげな瞳で、目の前に巻き起こる大事件を見つめている。



そして一瞬我に返った喜多川君は拓真くんを振り返り


「な、なんで藤堂立っちゃったんだよ!!」


真っ青な顔して拓真くんに疑問をぶつける。






「……そんなこと…知るか。
俺が知るわけないだろう!!!」


拓真くんは少しイラついた顔をしてバリバリと頭をかくと


「だけどこれで、響弥の予選失格は確実だ。」


「し、失格!!?」


「そうだ。自由形なら立ってしまってもその場で浮いてスタートすることが可能なんだが…平泳ぎの場合、レース中に立ち上がった瞬間に失格なんだ。」


冷静に水面を見つめながら、そんな残酷な言葉を口にする。





――失格…。キョウちゃんが失格…!?


『今度の選手権で…
俺が無様な負け方したら、オマエ…俺のこと見損なうか??』



拓真くんの言葉を聞いて。
私はあのロッカールームでつぶやいた、キョウちゃんの不可解な言葉を思い出していた。



キョウちゃんは私に言った。
ハッキリと迷いのない瞳で、そう私に問いかけた。