すると、拓真くんは動じる風もなくスッと人差し指を水面に向ける。
「響弥は…スロースターターだから。
見てな?
50よりも100、100よりも150、アイツは距離を伸ばすごとに恐ろしくタイムを縮めてくる。」
――スロースターター??
その言葉に首を捻りながら
でも、拓真くんの指さす方向を言われるがままに見つめていると、頭1つ分だった2位の選手の差が、頭2つ分、3つ分と、どんどんどんどん面白いように広がっていく。
――コレ……どういうこと??
目の前に巻き起こる、この事実が信じられずに
ただ無言でキョウちゃんの泳ぐ水面を見つめていると
「普通なら距離が伸びるごとに疲れてきてタイムが落ちがちなんだけど…響弥の場合は逆なんだ。疲れ知らずにどんどんタイムを上げてくる。
だから…響弥は100Mより200Mの方が強いんだ。」
“当たり前だ”と言った言葉通り
驚きもせずに拓真くんは、キョウちゃんの泳ぎを淡々と説明する。
だけど……
そんな言葉は、私の耳には残らない。
私の耳に残るのは
大きな声援に
大きな空調の音
そして…キョウちゃんが紡ぎだす淡い淡い水の音だけ――……
頭3つ分だった2位との差は
見る見るうちに半頭身分となり
100Mのターンを決めると、その差は1頭身分までに広がっている。


