「うん。
響弥はわかんないけど、キラは2分11秒台前半で予選は流してくるだろうから…この感じだと楽勝だろうな。」
――ん??流す??
聞き捨てならない言葉に首をひねったのは私だけではない。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ、日野さん。」
「ん??何??」
「だってこのレースは上位16名しか準決勝に進めないんでしょう!?なんで流して泳ぐんですか!!?」
うん。
私もそこが気になった。
“流す”イコール本気では泳がないってことだよね?
国際試合の選考レースも兼ねたこの試合、選手にとっては是が非でも勝ちたい試合の一つだと思うのに…なんで予選は本気を出さないの??
素人二人がまたまた首をひねっていると
「…疲れるから。」
拓真くんはそんな一言を口にする。
「…え??」
意味が分からなくて問いかけると
「日本選手権は一日で予選から決勝までを行う大会なんだ。10時から予選、16時から準決勝、19時から決勝。
オリンピックみたいに一日置いて決勝…とかじゃないから全力で泳ぎすぎると決勝までもたない。」
冷静に淡々と
いつものポーカーフェイスを振りまきながら拓真くんは私たちに説明をしてくれる。
「自分の体力を計算しながら、でもギリギリのところで泳ぐ。予選通過じゃなく優勝を狙ってるやつなら…当然の戦術だ。」


