私の耳元で、聞いたこともないような破裂音が響き渡る。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ…っ!!」
キョウちゃんの投げたパイプ椅子は私のすぐ隣にある白壁に思いっきりブチ当たった。
「…キョウ…ちゃん…」
呆気に取られて呆然としている私をよそに
「…わかったら、帰れ。こんなとこにいても……美織が嫌な想いするだけだぞ。」
キョウちゃんはよろめきながら近くのロッカーに背を当てて、その場にしゃがみこんでしまった。
膝を抱え込みながら、
頭を垂れているキョウちゃん
いつもの自信はどこへやら
今、私の目の前にいるこの人は、ただの弱虫だ。
思いもしなかったスランプに苛(サイナ)まれて、苦しんでいる、ただの男の子。
上手くいかないストレスを暴れることで解消してる、ただの弱い男の子。
――ホント…世話が焼ける人だなぁ…。
そう思いながら散らばる物をよけてゆっくりと前に進んで行って。弱虫で癇癪持ちなお子ちゃまな幼なじみの隣に『ヨイショっ』と体育座りをして座り込む。
何にも言わずにただ小さくうずくまっている幼なじみに
「あーのーねー。そんなの今さらだよ。キョウちゃんの意地悪には慣れてるし、キョウちゃんの傍にいて、いい思いしたことなんてこの10年近く一度もないでしょ?」
そう微笑みかける。


