「まだ日本選手権までは1か月近くあるからね。ゆ~~~っくり時間かけて考えるといいよ。」




完全に勝ち誇ったキラの表情をギリリと睨みつけながら




「…ゲスめ…。」




響弥は憎しみをこめてそう呟く。






キラはその挑発にも乗らずに


「ゲスで結構。
勝負は勝つから面白いんだよ。
勝てないレースに意味なんてないもん。」


キラはアッサリとそう返す。






そしてゆっくりと響弥の顔から足を外すと


「う、ウグっ!」


キラは響弥の腹を思いっきり蹴りつけて、こう言い放った。






「俺、悪いけど同情とかしない主義だからね?やるって言ったら絶対やるから~。
ま、どうするのかは藤堂に任せるよ。
じゃぁね、素敵なラ・イ・バ・ル・くん☆」







ご機嫌のまんま、ルンルンと鼻歌を歌いながらその場を後にするキラ



そんな彼を倒れこんだまま横目に見ながら、響弥は自分と闘い続けていた。




冬の寒さを浴びたアスファルトが体中の熱を奪い取る。


容赦なく打ち付ける風が響弥の自信も何もかもを奪い去る。






オリンピックに出たいという夢

世界選手権でメダルを取りたいという夢

そのすべては日本選手権にかかっている。



この何年間かは、今年の日本選手権に向けて調整し、厳しいトレーニングにも耐えてきたっていうのに……



諦められない


譲れない



同じ天秤では測れない競泳と美織
どちらも大切でかけがえのない存在の2つの宝物




そのどちらかをキラは選べという





――わかんねぇ…、わかんねぇよ!!!





響弥は自分の拳をギュッと強く握りしめた。