廊下を抜けて、プールサイドに着くと
私はパンプスを脱いで、近くにあったサンダルに足を通す。
バッグを抱えたまんま
中に入っていくと
「ああ、桐谷さん。」
初老のおじさん先生に声をかけられる。
「郷田先生、お邪魔します。」
この先生の名前は郷田武志(ゴウダタケシ)
学生やコーチからは“ジャイアン”と呼ばれる帝体大水泳部の鬼監督だ。
「練習中お邪魔してしまってすみません。」
「いえいえ。
どーせあのクソガキが貴方のことを呼びつけたんでしょ。謝るのはこっちですよ。」
ジャイアン…………もとい、郷田先生はニコニコと微笑む。
郷田先生はキョウちゃんの就職先を選ぶ時にも、とても力になってくれた人。キョウちゃんの才能に惚れ込んでいる一人でもある。
「藤堂選手の調子はどうですか??」
「なかなかいい調子ですよ。
この分だと二月の日本選手権は楽勝でしょう。」
そう言って、郷田先生は4レーンを指差す。
そこには大きなストロークをかきながら
クジラのように突き進む、キョウちゃんの姿があった。
テレビでは伝わらない
大きな大きな水をかく音。
真剣な目をしたキョウちゃんの姿
十分に伸ばした手足が水をかき
大きな体がグングン伸びる
彼の泳ぎ
――速い……
驚きの瞳で
彼の姿を追っていると
「波はあるが、タイムはいい。
アイツは凄いヤツですよ。今のアイツなら、世界選手権でも二連覇が狙えるかもしれないなぁ。」
郷田先生は満足そうに、呟いた。


