いつもクールで
表情を変えない拓真くんが
苦しそうに眉をゆがめる。
私の手を握ったまんま
うなだれて
下を向いたまんまの拓真くん。
その瞬間…
私はキョウちゃんの付けた傷の大きさを改めて再確認する。
キョウちゃんが傷つけたのは私だけじゃない。
拓真くんも…あの事件の被害者なんだ。
もちろん、キョウちゃんだけを悪者にするつもりはない。
私だって、あの事件を理由に拓真くんから逃げ続けて、一番卑怯な“自然消滅”っていう別れ方をしてしまったんだもん。
悪いのはお互い様だ……。
キョウちゃんは私を傷つけ
私は拓真くんを傷つけた。
キョウちゃんは私の傷のことを“うれしい”と罵倒したけれど、ここで何も言わず、何も語らず、拓真くんの前から逃げてしまうことは、私がキョウちゃんにされた侮辱と同じことになるんじゃないのかな。
私も拓真くんも逃げられないトラウマに縛られて、先に進めなくなっている。
自分がされて嫌だったことをやり返すのって…人としていけないよね?
自分は苦しんでも構わない。
乗り越えなきゃいけない壁なんて、人生山のように現れる。
だけど……
自分の苦しみと同じくるしみを人に負わせるのは、私の美学に反する。


