生きるために泳いで
自分の人生を勝ち取るために泳ぐ
キョウちゃんに『どうして泳ぐの?』と聞いたら、彼はきっとこう言うだろう
“俺は泳ぎたいから泳いでるだけだ”
だけど……
目の前にいる吉良光太郎は、自分の運命を賭けて泳いでるんだ。
「美織、オマエが複雑な気持ちを抱えているのはよくわかる。だけどな?競泳は金がかかる割にはマイナーなスポーツでなかなかスポンサーも現れない。
でも、オマエのプロダクションはいろんな企業とのつながりがあるだろう??俺は何度もキラと話し合って、お前の事務所に所属することが一番マストな選択だと思った。」
「……。」
「慎には“頼みたい奴がいる”とだけ伝えてる。今日の話をアイツに伝えてくれないか??」
ソファーに前のめりになって座りながら、龍おじさんは一生懸命、私に話しかける。
祈るような表情のおじさんに
刺すような視線を向ける、吉良光太郎。
キョウちゃんのライバルは
生い立ちさえも正反対なんだな……。
私はこんな状況にもかかわらず、そんなくだらないことに思いを馳せる。


