そう思った私は、大きく息を吸って心を整えて
「吉良さん。」
「なーに?」
「私は藤堂響弥の幼馴染です。
そして…社長である父は彼を実の息子のように愛しています。」
「ふーん、それで?」
「いざとなったら私たちはあなたではなく、藤堂響弥を応援してしまうかもしれません。それで本当にあなたはいいんですか?
あなたのことだけを考え、親身になってくれる事務所は他にもあるはずです。
もしよければ私が事務所をお探しいたしますが……。」
そう彼に提案すると
「…断る。」
吉良光太郎はきっぱりと私の申し出を切り捨てた。
その返答の速さに驚いて
目を真ん丸にしたまんま、彼を見つめていると
「正直言って、他の道はオーナーと死ぬほど考えたよ。
だけど何度考えても、俺たちの答えは“アンタの事務所に世話になる”に行きつく。」
彼は静かな目をして、こう語る。
「…吉良さん…。」
「俺の夢はオリンピックで金メダルを取ることだ。それ以上でもそれ以下でもない。
俺は…俺を応援してくれる人のために勝たなきゃならない。そのためなら……俺はなんだってやってやるよ。
アンタがやれって言うなら、藤堂に土下座したっていい。
俺の夢への近道は…アンタの事務所だ。」
サバンナの野獣のようにギラギラ光る眼をして。野心を込めて、吉良光太郎はハッキリ言い切った。


