まるで子馬が生まれるように、悟くんの体がスルッと床の上に落ちた。

悟くんは身動き一つしない。

要さんは、悟くんの顔を覗き込んだ。


「くそっ! 息をしてない!」


悲鳴が漏れそうになって、わたしは片手で口元を押さえた。


要さんは、悟くんを俯せにして顔を横に向けさせると、背中を押しはじめた。

そのまわりで緑色のモノがうごめいて集まり、形を作ろうとしていた。

圭吾さんがもう一度手を打ち鳴らす。


「散れ」


緑色のモノは細かい飛沫となって周囲に飛び散った。


「悟! 戻って来い!」

要さんは、悟くんの背中を押し続けながら叫んだ。

「イツキ! 聞こえるか、イツキ?! お前の時はもうすぐ終わる。あの娘(こ)の光を集めても、こいつの命を飲み込んでも、お前が若返る事はない!」


岩の裂け目から風が吹きすさぶような音がする。


「辛いよな。悲しいよな。でも、どんな生命もいつか終りの時を迎えるんだ。イツキ、お前は綺麗だったよ。毎年毎年、春が来る度に満開のお前に見とれたよ。お願いだ、俺の中のお前の記憶を汚さないでくれ。俺の――俺の弟を連れて行かないでくれ!」