「和子さん、家族はいるの?」


場違いな質問をすると、和子さんはホホホッと笑った。


「妹が二人。この年ですからね、親はもうおりません。結婚は一度しましたけれど、つまらぬ男でしたので三行半をつきつけてやりました」


『みくだりはん』って何?


「離縁状の事ですよ」

キョトンとしているわたしに、和子さんが微笑んだ。

「今で言う……ああそう、離婚届でございます。結局、子供も持てませんで、貴子様と志鶴様のお母様を自分の子供と思ってお育ていたしました」


あ……そっか


ママを亡くして辛かったのは、わたしと親父だけじゃない。

貴子伯母様も、和子さんも、同じように悲しんだんだ。

みんな大切な人を失って、それでも生きていく。


生命を繋いで

思いを繋いで

愛を繋いで


ママの命がわたしの中に流れているように、ママから受け継いだ和子さんの愛情もわたしの中にある。


「和子さん、ずっと元気でいてね。わたしの赤ちゃん、抱っこしてもらうんだから」