―――瞬間、私の世界が暗転した。


「…?!」


感じる、身体を包む、大きな優しいぬくもり。


鼻をくすぐる、心地よい香水の香り。


一瞬なにが起こってるのかわからず、混乱した。


停止しそうになる頭を必死に動かして、考えて。


琉威に抱きしめられているんだと気づくのに、たっぷり3秒は要した。



「琉、威…?!」



やっと状況を理解した私が焦ることなんてわかりきっていて。

わたわたと、琉威の腕の中の私はぎこちない動きを開始する。


なんで抱きしめられてるの?! って、頭の中がぐちゃぐちゃになって。

顔が今までにないくらい熱くなるのを感じて。

背中とか手とか、いたるところから変な汗がたくさん流れてきて。


あまりの恥ずかしさから、琉威の腕を逃れようと、私はガムシャラにもがいた。



「は、放して…っ」


恥ずかしい、頭がごちゃごちゃになる、なにがなんだかわからない。


とりあえず離れなきゃ、私の身体がおかしくなってしまう…!

思ったよりきつく抱きしめられていたことに戸惑いつつ、私は琉威の胸を押し返そうと腕に力を込めた。


「琉…威ぃ…っ」


ぐいっと身体を引き離し、やっと私の視界に夕焼けの赤が映ったと思えば、


「遊紀…っ」


愛しそうに、切ない声で、琉威が私の名前を呼んで。

ぐっと、また引き寄せられて、私の身体が琉威の腕の中に逆戻りした。


「ふぁ…?!」


焦りと混乱から、私の口から変な声が漏れた。

そんなことにも琉威は全く反応せず、ただただ私を必死に抱きしめている。


なんか言ってよ?

そんな真剣に抱きしめないで


おかしく、なっちゃうよ…!


喉の奥までジリジリと熱くって、もう拒絶の言葉も紡げそうにない。


鼻の奥まで琉威の香水とうっすらと香る汗の匂いで満たされて、まともに思考をめぐらせられる自信がない。



時間にしたらものの数秒なのに、私はこの瞬間が永遠にさえ感じられた。




琉威の肩越しに見える、沈みかけた太陽。


先輩や同級生が、私たちを真っ赤な顔で見てる。



すべてがスローモーションのよう。




恥ずかしいのに、放して欲しいのに、すごく心地いい…。



もうなにも考えられない…。



ぼーっとしてきた意識をもう手放す覚悟で、私は琉威に身を委ねた。




「琉威…。 好、き…」



ほとんど無意識にそう呟いて。