―――――パンッ!
スタートのピストル音が響く。
その音が私の耳に入った瞬間、私は何かに突き出されるように、飛び出した。
びゅんびゅん、風をきる。
さっきまで頭にあったこと全部が、なにもかも吹っ飛んで
ただただガムシャラに。
あぁ、まっしろ
なんも考えらんない。
気持ちいい
心地いい
全力で走ったら、たとえ100メートルの、ふだんはすごく短く感じられる距離にとても息が切れる。
必死に走ったら、歩くと意外と長いと感じる100メートルが恐ろしいほど短く、一瞬の出来事のように儚いものに思える。
不思議なキモチ、不思議なオモイ
この感覚が大好きなんだ
この瞬間が大切なんだ
だから、私は一本も、たとえ1メートルのレースだって無駄にはしない。
たとえ1メートルに満たない距離だとしても、気なんて抜くわけない。
だって、レースの1本1本は生きているから。
同じ時は二度と来ないように、同じ走り、同じ気持ち、同じ感覚
そんなもの、二度と味わえないし、
そんなもの、二度と味わいたいとも思わない。
『走る』ってことは
いつも同じに大好きで、いつも同じに気持ちいい。
でも、同じ顔はもう見せてくれない。
それがいいんだ。
同じ顔がいっぱい、なんて、つまらないでしょ?
いっつも同じ顔なんて、楽しめないでしょ?
だから私は走る。
無我夢中で羽ばたく。
大好きなあなたの、いろんな顔が見たいから。
気づけば私は、もうゴール間近だった。
あぁ、ゴールが見えた。
光り輝く、私たちの目指す『スタート』


