焼け木杭に火はつくか?

「サトルくん。それ、テイクアウトできます?」

ガトーショコラを目で指して尋ねる良太郎に、聡はちらりと目を向けた。

「おばちゃんにか?」
「うん。母さん、それ好きだからさ」
「ん。用意しとくよ」

母親にいい手土産ができたななどと考えながら、忙しそうにカウンターの中で動き回っている聡を見ていた良太郎は、唐突にここに来た本来の目的を思い出したように、持ってきたノートをカウンターに広げて眺めだした。

「サトルくん。なんか面白い話ねえ?」
「ねえな」

甘えるようにそう問いかける良太郎を、聡は短い一言で突き放す。そんな聡に良太郎はカウンターに突っ伏して頭を抱えるしかなかった。

「そう言わずに、一緒に考えてよう」
「そりゃ、おメーの仕事だろ」
「たすけてください」
「甘えんな」
「泣くよ」
「泣け」

そう言って、けらけらと笑った聡は、一度にそんなに運べるのかと不安そうな顔をする良太郎の目の前で、四つのケーキプレートを腕まで使って持つと、危なげない足取りでテーブル席へと歩いていった。
すげーと良太郎は呟き、またノートに目を落した。