焼け木杭に火はつくか?

そろそろ、午後も二時を過ぎようという時間だった。
『Waoto』から公園が眺められる窓際のテーブル席には、まだ数名の客の姿があった。
開店直後のランチタイムから夕方の4時近くまで、この団地に住む主婦たちが、数名のグループを形成して入れ替わり立ち代りやってくる。
この店が一番賑やかな時間帯だった。

「いらっしゃいませ」

良太郎が外壁よりはやや濃い緑の木のドアを開けて店内に入ると、カウンターの向こうに白のTシャツにブラックジーンズ、濃紺のエプロンという装いで働く聡がいた。
良く通る、耳に心地よい柔らかな声で、聡は良太郎に挨拶を寄越した。
そんな聡に軽い会釈つきの挨拶をしながら、良太郎はいつもの席に陣取った。


カウンター席。
向かって一番右端。
店の一番奥。


そこは今や、良太郎の指定席となりつつあった。

「コーヒー?」
「うん。ブレンド。濃い目で」
「ランチはどうするよ?」
「朝から座ったままだから、腹も減らないんだよね」
「頭キリキリ使えば、腹も減るべ」
「使ってないかも。うんともすんとも言ってない気がする」
「そりゃ、ダメだな」

良太郎の前に立ち、冷たい水とほどよく冷えたお絞りを良太郎の前に置いた聡は、良太郎とそんな話をしながら、注文を受けているらしいケーキセットを、カウンターの中で手際よく用意していた。